ある夕暮れに野辺に来て 尾花が中にありし時 我はおもいにたえかねて ひとこえ呼びぬ君が名を 呼ばえる声は山びこの 答うるおとをきくごとく 森にはやしに野に山に いともはるかにひびきゆく 呼ばえる声はをち方の 人の言葉をきくごとく くれゆく空に野の末に いとたえだえにきえてゆく いとなつかしき君が名も かくてはかなく大空の むなしきうちに消え果てぬ ああいかにせんわがおもい 田山 花袋 作 『我が影』 から 『君が名』